この記事は、書籍紹介となります。
ここで紹介するのは、田中圭一さんの「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」です。
2014年に出版され、同年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたり、2018年に実写ドラマ化されるなど、うつ病のコミックエッセイとしてかなり広く知られた本になります。
僕は昨年の休職中(2021年11月頃)に読みました。メンタルヘルス不調に陥って、そこから抜け出した人の体験談を広く読んでおきたかったのが動機でした。
著者紹介
田中圭一 (漫画家) – Wikipedia によりますと、
- 1962年生まれ
- 小池一夫劇画村塾第一期生。大学時代から漫画家として活躍
- 大学卒業後はタカラを始め、コンピューター開発会社、ソフトウェア開発会社など多くの企業でキャリアを積み、現在は株式会社BookLiveに籍を置く。
- その一方で、『田中圭一最低漫画全集 神罰』『田中圭一のペンと箸――漫画家の好物』など漫画家としても活動。
- 現在は京都精華大学の准教授につき、会社員の傍らギャグマンガコースの講義を担当。
- 下ネタ漫画やサラリーマン経験を生かした漫画が多く、また、手塚治虫などの作風を真似ているため『イタコ漫画家』とも呼ばれる。
- 長らくうつ病を患っており、2000年春頃から精神的不調で投薬治療を開始し、寛解に至るまでの体験を基に『うつヌケ』を著す。
とあります。
会社員として働く傍ら、漫画家を兼業し、准教授を勤めるなど、非常に精力的な活動をされております。
僕の主観ですが、真面目な会社員とは別な一面を漫画ということで精神を保っていたのかなぁと思ったりします。
内容
著者をはじめとする17名の方々のうつ病の経験を取材し、手塚治虫タッチの漫画で表現しています。
その中には歌手の大槻ケンヂさん、AV監督の代々木忠さん、フランス文学者の内田樹さんなど、有名な方も入っています。
このような方もうつ病にかかっていることで、うつ病が誰がいつかかってもおかしくないということが言えます。
感想
漫画特有のイメージのしやすさ
漫画だと、うつというものがどうやって人の中に入り込み、侵食していくかわかりやすいです。
うつを「黒いもやもやした感じの生き物」で表しています。それが大量に人にまとわりついてきて、結果として人が動けなくなってしまうという描写は、うつの見えないチカラを的確に表現していてすごくわかりやすいです。
そして、文字だけの体験談では、うつヌケした時の晴れやかな気持ちというのはイメージしにくいのですが、漫画タッチで可視化してくれると、本当にわかりやすいです。
うつ特有の鬱屈した気持ちを「トンネル」と言い表しているのも、いい表現だなと思いました。「トンネル」から出ていく時の晴れやかさが、また読んでいる人の気分を良くさせてくれます。
うつのいろいろなあるある
そして、作者が分析する、うつの傾向についても共感できるところがあります。
うつになった経緯、うつの症状、うつトンネルからの抜け出し方、本当に人それぞれなのですが、いろいろな体験談から、以下の傾向を「あるある」として見出しています。
- 生真面目。
- 気が小さいが前向き。
- 責任感が強い。
- 自分がすべて悪いと思い込む。
- 自信を失う。
- 自分が嫌いになる。
- 周囲から「自分が必要とされている」と感じる。
- 過去の辛さを乗り越え自分を肯定できる。
大雑把なところもあるのですが、実体験に基づいていることもあり、一つの考え方として大変参考になると思います。ただ、全員に対して「あるある」とあてはまることでもないので、「僕もある」と思ったことを取り込んでもらえたらいいと思います。
僕は特に、うつトンネル入り口と出口のあるあるは共感しました。
自分の存在意義がなくなるとうつトンネルに入っちゃうし、またうつトンネルの出口も「自分で自分の存在意義がわかる」ということになるんだろうなと思います。
まとめ
以上、この本の感想でした。
一言でいうと、「うつ病ってどのような病気なのだろう」と思った人がはじめに読む本としておすすめです。当事者ばかりでなく、周囲の人が当事者を理解する本としてもいいと思います。
まず「うつ病というものがどのようなメンタルヘルスの不調であるか」ということがわかります。そして「有名な人でもかかるような、誰が陥ってもおかしくない不調」ということも認識できます。漫画の長所である「イメージが可視化されている。」ということもあって、大変理解しやすいと思います。
一方、この本の感想について、「内容が薄い」という指摘もあります。
確かに、具体的にどうするということについては内容を端折っている部分も感じられるます。しかし、内容を満載にすると、1人の体験談だけで200~300ページの漫画ができそうなので、いろいろな人の体験談を乗せるために、このようにしたのかと思います。
なので、実際にうつの治療・社会復帰とか、医学的な知識を身に着けたいという場合、さらにいろいろな書籍や専門家が書いた記事を見て、知識を深める必要があります。この本の著者も、「精神科医が自ら考えてうつを治した」という内容の書籍を読んで、ヒントを得ていました。
この本もそういう意味では何らかのヒント、糸口がつかめるかもしれません。読みやすいので、ちょっとだけ期待して読んでみましょう。