この記事では、アドラー心理学を紹介した『嫌われる勇気』の内容から僕が印象に残ったことについて、その考えを書いていきたいと思います。ここで紹介するのは「横の関係と勇気づけ」です。
縦の関係と横の関係
アドラー心理学において、縦の関係は「上下関係」、横の関係は「対等な関係」と言い換えることが出来ます。
ここでいう縦の関係(上下関係)は他者の比較において優劣を意識する関係であり、横の関係(対等な関係)は、他者との優劣の比較はせず、違いはあるけれど対等という関係です。
例えば、上司の指示に対し、おかしいと思ったとします。
上司に対して縦の関係を意識すると、「目上の人に意見をすることはできない」と思って遠慮してしまいます。一方、横の関係を意識していると、上司に対しても「別のやり方がある」と意見を主張することが出来ます。
このように縦の関係は本来意見することが必要だったのに、自分は主従関係に置いて従属している立場を持ち出して、自分が意見する責任を回避した行為であると言えます。
一方で、横の関係を築いていると、主従関係という違いはあるけれど、対等であるという意識のもと、上司であっても堂々と意見をするという責任を果たす行為が出来るようになります。
介入と勇気づけ
別記事で課題の分離を行い、自分の課題と他人の課題を切り分けることが必要であるということを書きました。
ただ、課題の分離は、他者の課題を取り合わない、すなわち放任主義を推奨するものではありません。他者の課題にも向き合う必要があります。その向き合い方については以下の2つがあると僕は解釈しました。
- 介入
→他者の課題に立ち入り、他者がその課題を行うよう操作すること - 勇気づけ
→他者の課題を克服するための動機を与えること。
介入と勇気づけの違いを説明する例として、ここでは「勉強しない子供に対して、親が勉強するように仕向ける。」という課題を取り上げます。この課題に対する介入的なアプローチと、勇気づけ的なアプローチは以下のとおりです。
- 介入的アプローチ
・「勉強しないとごはん抜き!」という勉強すること行為自体の強制
・「勉強して医者になりなさい」という子供の将来の目標の強制 - 勇気づけ的アプローチ
「勉強することで、あなたの夢の達成に近づく具体例の提示」という
子供の将来の目標への動機づけ
介入は、縦の関係に起因します。
いわゆる自分が優位に立って、下位に位置する他者を自分が思うように操作したいという目的があります。また、「自分は正しい、他者は違っている」ということが前提にあります。よって、介入の行動の主体は自分にあります。
一方、勇気づけは、横の関係に起因します。
あくまで他者を一人の人間として尊重し、課題を克服するためのアイディア、アドバイスを与えて、他者の自発的な行動を促すのが目的となります。勇気づけの行動の主体は自分ではなく他者です。
褒めること、叱ること、感謝すること
アドラー心理学において、コミュニケーションを取る際には「褒めてもいけないし、叱ってもいけない。」という立場を取っています。
褒めるにしても、叱るにしても、「能力がある人が、能力のない人に対して下す評価。」という側面があります。また、こうした評価は縦の関係に起因しています。
そして、評価という行為により、能力のない人に対して、能力のある人にとって都合のいい行動を取らせる目的があります。
褒めるという行為は「他者の承認欲求を刺激する。」、叱るという行為は「達成しなかった時の恐怖感を相手に与える。」というアプローチの違いだけであり、どちらも操作する目的のために行っていることと言えます。
その一方で、アドラー心理学において、コミュニケーションを取る際に「感謝する」ことを奨励しています。
その理由として、「人は感謝の言葉を聞いた時に初めて貢献感を感じることが出来る。」ことを取り上げています。そして、その貢献感を感じることで、人は自分の価値を感じることが出来るとしています。
また、感謝については、人を評価しているというニュアンスはないです。したがって、他人を操作する目的はなく、自発的な行動を促す、勇気づけの行為になります。言い換えれば、自分と相手を対等に見ているからこそ出てくる言葉であり、横の関係に起因する行為であるといえます。
まとめ ~介入しなければ褒めても叱ってもいい~
以上で、横の関係と勇気づけについて書いていきました。まとめると、
- 縦の関係は「上下関係」、横の関係は「対等な関係」
- 介入は上下関係に基づく行動、勇気づけは対等な関係にもどづく行動
- 叱ったり褒めたりするのは介入、感謝は勇気づけ
ということになります。
しかし、ここまで書いて改めて思うのですが、「叱る・褒める』評価をすることについては、必ずしも介入の意図がないものがあります。以下のような評価をした場合、介入ではなく、むしろ勇気づけの側面が強くなると感じています。
- 他者の人格を否定せず、行動に着目した評価
- その行動を起こした時にどうなるかという結果を予測した評価
- 客観的な事実に基づいた評価
- 「自分はこのように感じる。」というアイメッセージで伝える評価
そして一番重要なことは、「行動の主体は他者にある。」ことを意識することです。
褒めるにしても、叱るにしても、最終的にそれをどのように受け止めるのは他者ですので、そこに立ち入らない冷静な指摘が 必要です。
もし、その行動を他者が取る素振りを魅せなければ、その時にまたどうするか考えればいいだけの話です。再び勇気づけを行うのも一つの手段ですし、関係を断ち切ることも一つの手段です。
逆に、自分が介入や勇気づけを受ける立場になった場合ですが、どちらにしても、一旦受け入れることは大事だと思います。
ただ、行動するのは自分ですので、自分の理想と照らし合わせた上で、実際に行動に移すのか、反発するのか、代替案を提示するのかは自分の責任で決めればいいと思います。